雨が降ってたから

レースが終わって、競艇場からの帰り道。
雨が降りそうだからタクシーを電話で呼ぼうとしていたら

洞口君が後ろから傘を貸してくれた。

「降ってきたよ。」
「あ、ありがとう・・・」
「駅まで行く?」
「・・・うん。」
タクシーはやめて、洞口君と最寄駅まで歩いていく。


「『洞口の走りが変わった。』って鮎川さんが言ってたよ。」
「へぇ、そう・・・」

鮎川先輩だけじゃない。私も今回一緒にレースを走って感じていたけど、
『自分の思い』として言うのはなんだか決まりが悪かった。


『みんなが納得する勝ち方で勝つ意味を・・・わたしが分からせてあげるわっ!』


・・・けれど彼は自ら変わってみせた。

私では彼は支えきれなかった。

彼のお父さんや、波多野くんたちとのレースの中で、
彼は見つけていったのだ。勝つ意味を・・・。

私が彼を変えられるだなんて、とんだ思い違いをしていたものだと思う。
どうして?
自惚れじゃなく、彼は私のことをとても好きだったから。
今はもう、そういう関係ではなくなったけど・・・



「走りが変わった、か・・・・・青島さんのおかげかな」

そう言われて顔を上げると洞口君と目が合ってしまった。

あわてて視線を戻す。

(そうだった、あんなふうに優しい顔もする人だった。)

レース場での厳しい表情ばかりを見るようになってから、しばらく忘れてしまっていたけれど
二人だけで居る時はまるで子供みたいに笑ってた。

胸がうずく。



「じゃぁ・・・またレース場で。」

それぞれのホームへ向かう。
足がふわふわ落ち着かないけど、嫌じゃない。

そんな梅雨の日の夕暮れ。



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